酸化マグネシウム(MgO) の還元
東工大矢部グループが太陽光をCWレーザーに変換し、そのレーザーを用い海から得たMgを用いてエネルギーサイクルに用いる提案 いわゆるレーザーを用いたマグネシウムエネルギーサイクルである。
この提案は、興味深く、実現すれば非常に役に立つ。
現在までの重要な問題点は、再三各人から指摘されてきたがエネルギーを移し終えた(発生し終わった)酸化マグネシウムをどのように高効率で還元するかである。
太陽光で各種の酸化金属を還元しエネルギー利用する試みが現在でも各国で続いている。CWのレーザー照射を用いた場合でも還元実験が行われているが最大で1の酸化マグネシウムに対し1割しか還元できなかった。これは還元率である。これは、発生させることができる温度が数1000度での話である。酸化金属を数万度にすれば効率よく還元できる。マイクロ波を用いた酸化金属の還元実験がすでに行われている。
これとは別に、エネルギー効率の話がある。エネルギー効率を考えると酸化金属に100投入したうちの40弱のエネルギーしか最大で金属へ移行できない。Mgと酸素の温度を別々にその乖離温度まで上げる必要があるからである。これば、あくまで熱力学とエネルギー保存則に従うのみである。
東工大グループは、上の酸化マグネシウムの還元率は、トータルで10数%である。しかも、エネルギー効率はおそらく10%を切ると思われる。
一方、1990年の初頭から、パルスレーザーを用いた液中での酸化金属の還元実験が行われてきた。パルスレーザーは、CWレーザーと比較して、瞬間的な光強度W/cm2と、フルエンスJ/Cm2が格段に高い。最近まで液中で粉末に低繰り返しのパルスレーザーを照射して酸化金属の還元が少なからず報告されてきた。しかしながら、上の手法を用いても還元率は70%までしか達しなかった。
我々のグループは、10kHzを超える高繰り返しパルスレーザーを酸化金属の還元実験に用い、ほぼ100%に近い還元率を得ることに成功した。
ここでは対象を酸化マグネシウムにし、還元実験を行った結果、他の金属で行った結果と同様に、還元に成功した。還元効率はレーザー照射後ほぼ100%に達することを実験で明らかにした。
さらに、ここで注目すべきが還元の物理である。この方法では、高い還元率を得るだけでなく、高いエネルギー利得を得ることができる。
この還元のメカニズムであるが、従来の熱還元でなく、クーロン爆発での説明が現状では普通に行われている。これが生ずると従来還元に必要であったレーザーのエネルギーが格段に低下する。この反応ではレーザーの役割はトリガにしかすぎない。投入したレーザーエネルギーを1とすると、それに対し還元した金属の蓄積された化学ポテンシャルエネルギーが、50やそれ以上となることを実験で確認済みである。
我々の実験でも、多量の電子放出がレーザー照射で生じていることを確認している。この物理の詳細については別の参考文献や報告に譲る。
クーロン爆発
まず、酸化金属にパルスレーザーが当たり、多光子吸収による電子放出が起こる。
レーザーの電界による電子加速で、電子雪崩(アバランシェ絶縁破壊)が生ずる。
酸化金属はどろどろの液状になり、プラスの電荷だけになりその電界の反発力により爆弾のように酸化金属が破裂してプラズマが生ずるというものである。
レーザーの仕事は、最初の多光子吸収による電子放出のみである。
写真 マグネシウム板上に焼成マグネシウム板を作成した例
左) 酸化マグネシウム(MgO)粉末から焼成マグネシウム板を作成、
右)マグネシウム空気電池でマグネシウム板を使用した後の残りの粉末(水酸化Mg粉末)をリサイクルして焼成マグネシウム板を作成
酸化Mg粉末、および、水酸化Mg粉末は、液相レーザーアブレーション法で還元した。
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共同研究、技術提供、その他
株式会社 ぺガソス・エレクトラ