金属ナノ粒子を利用した水素製造


研究担当: 富永健太(B4)


卒業生 古 隆志, 上田剛、倉本稔志岡田竹弘


キーワード: 再生可能エネルギー、自然、太陽光、レーザー、金属、ナノ粒子、水素、エネルギー貯蔵、発電
金属空気電池

太陽光を用いた水素製造・貯蔵に関する研究が日本のみならず世界で行われている。
すでに鉄(Fe)金属ナノ粒子を利用した水素貯蔵・利用法も提案されている。

東京工業大学 大塚氏  アンモニア尿素法による生成
ウチヤサーモスタット
東邦ガス



さらに、鉄を太陽光で直接還元する提案も行われている。

若狭湾エネルギー研究センター

"Solar Thermochemical Splitting of Water: Theory, Application. and Materials Reserch Opportunities"
Alan W. Weimer, Department of Chemical and Biological Engineering, Universit of Colorado, Boulder, CO
Global Climate and Energy Project (Stanford University) Feb. 24, 2006

若狭湾エネルギー研究センターの場合、太陽光を直接用いるので還元した後、鉄を含んだ固まりをボールミルで粉々に砕き水と反応させている。


上記の研究開発は大変面白く、重要性があると思われる。
問題点は、上のグループでは1)ナノ粒子製造における低コスト化、2)下のグループは、太陽光を直接使用するので鉄が固まりになってしまい、そのままでは水素製造の反応効率が低下する、の2点であろう。

太陽光で酸化鉄を高温に加熱するため、2000K付近まで温度を上昇させなければならないが、時間が長い(レーザーでは極短時間ですむ)と推察される(と我々は考えている)。




図、太陽光励起レーザーと金属ナノ粒子を用いた水素製造サイクル


上記エネルギーサイクルの説明
 

関西大学システム理工学部 電気電子情報工学科 超高周波工学太陽光励起レーザーG とレーザー総研の提案


1) まず、酸化鉄Fe2O3かFe3O4を準備する。数マイクロオーダーの粉末で良い。

2) 太陽光でセラミックレーザー媒質を励起して高繰返し
短パルスレーザーを発生。注)CWのレーザーでは溶液は還元困難。実験済み。

3) パルスレーザーを酸化鉄入り溶液に照射するのみ。

4) レーザーの強度によるがある閾値を超えると、数10nmの鉄ナノ粒子が生成

5) 水と反応させる。200−350度程度で水素が発生。 この時点で、鉄粉末は酸化鉄に戻る。

6)水素を燃料電池車・バイクに供給する。

7)酸化鉄を3)に戻してレーザーで還元する。


利点
 1、太陽エネルギーを利用するので水素の製造コストが低い

 2、低炭素利用 
   太陽光からレーザーへ変換する過程、及び、エネルギー貯蔵媒体は炭素が介在しない

 3、世の中にありふれたすでに流通している金属を利用
   クラーク指数が大きいものを使用する。例えば、アルミ、マグネシウム、亜鉛、鉄など
     
 4、エネルギー貯蔵が行える
   鉄と水を分離して運搬し、必要なときに反応させて水素を製造可能


 
5、還元剤や触媒を使用しない
    太陽光等を用いて酸化金属を純粋金属へ還元する際、還元反応を促進するための還元剤が使用される場合がある。
   これは、酸化金属を還元するための反応温度をできる限り下げる必要があるためである。
   しかし、還元剤は無限に存在しない。これを元に戻すためのエネルギーが必要となるため、結局、
   エネルギーサイクルは成立しない。我々が用いる方法では、この還元剤を使用していない。


A.酸化鉄の還元実験 液相レーザーアブレーション法
上記の提案が可能であるかを確認するため、我々のグループと(財)レーザー技術総合研究所は太陽光励起レーザーを用いた酸化鉄の還元+ナノ粒子化実験を行った。その結果、Feへの還元を確認した。詳細については割愛します。


Nd:YAGパルスレーザーによるFe2O3の還元+ナノ粒子化実験
左:レーザー照射前 Fe2O3は沈殿、 中央:照射後 Fe2O3多、右:照射後 Fe2O3が中央より若干少ない

(財)レーザー技術総合研究所 研究員 谷口氏提供


さらに、実際の太陽光を用いてナノ粒子製造実験をすでに行った。


屋外での太陽光励起高繰返しパルスレーザー発生と金属ナノ粒子生成実験
2010年 10月5日 於 関西大学システム理工学部 第3実験棟前 千里山キャンパス内




B.Fe粒子を用いた水素製造装置


      水素生成マイクロリアクター

写真は水素生成マイクロリアクターで反応容器のサイズは2cmx2cmです。水素発生量を1L未満に抑えたかったのでこのサイズにしています。当然のことですが装置は大型化可能です。



        
         鉄粒子(数um)

水素製造に用いる鉄粉末で、サイズは5ミクロンです。これを液相レーザーアブレーション法により小さなナノ粒子へ砕きます。また、Fe3O4やFe2O3の酸化鉄をレーザー照射して還元・ナノ粒子化を行い、これらを水素生成実験に用います



      水素製造実験装置

実際に水素製造実験を行っている様子です。これは2代目の装置です。
Fe3O4やFe2O3の酸化鉄にパルスレーザーを照射して還元・ナノ粒子化した粉末を用いた時の水素生成量は、純鉄を用いた場合と同等であることが明らかになっています

W未満のパルスレーザーを用いて1日15g以上の還元ナノ鉄粒子をつくることが可能です。


C.水素燃料電池を用いた発電

ホライズンから販売されている可逆型PEM燃料電池です。これを発電実験に用います。



      
PEM燃料電池での発電
無負荷状態での出力電圧は0.969V


上の燃料電池に水素製造実験装置で発生した高濃度水素を用いて実際に発電している様子です。
モータを駆動することができます。



Horizon Fuel Cell Japan  H-レーサー 2.0

今後の課題
燃料電池車デモ
大量生産システムの開発


注意
1)鉄の還元実験をここでは行いましたが、マグネシウムやアルミにも適応可能です。
2)中には水素製造自体が変換効率が悪いとおっしゃる方がいますが、還元鉄を空気と反応させて電気を発生させる研究も行っています。こちらへの利用も可能で、電気への変換効率は良いようです。


参考文献
1.佐伯拓、谷口誠治、中塚正大、”太陽光励起高出力固体レーザーの進展と高温化学への応用”
,光学設計グループ機関誌 No.47 環境と光学 2011.06.03  pp.3-9.
2. M. Kawasaki and N. Nishimura, J. Phys. Chem. C 112 (2008) 15647.
3. "Hydrogen Production using Reduced-iron Nanoparticles by Laser Ablation in Liquids",
T. Okada, T. Saiki, S. Taniguchi, T. Ueda, K. Nakamura, Y. Nishikawa, and Y. Iida,
ISRN Renewable Energy, Vol. 2013 (2013) ID 827681-1-7.



金属空気電池


ELEKIT マグネシウム燃料電池カー [ JS-7900 ]