ベース金属と太陽光励起高繰返しパルスレーザーを用いたエネルギーサイクル
関西大学システム理工学部電気電子情報工学科
佐伯 拓
研究期間 2010年〜現在
2018.12.28
現在、化石燃料の枯渇や原子力問題を背景に自然エネルギーに対する期待が高まっている。
太陽エネルギーを用いて酸化金属を金属に還元させ、化学ポテンシャルエネルギーの差としてエネルギーを蓄積し、その還元金属から水素を発生する研究が現在までいくつか行われている。
太陽光を直接用いた酸化金属の還元は過去100年、色々と研究が行われたが、効率が数%と低いため、実用化には至らなかった。その理由は、この還元方法では高温による酸素と金属の乖離による酸化金属から金属への還元であり、太陽光を用いても3000K程度にしか酸化金属を加熱できないためである。高効率な酸化金属から金属への還元を行うには、数万度の高温の発生が必要となる。
そこで、太陽光の代わりに太陽光を太陽光励起レーザーでCWのレーザー光に変換し、そのレーザー光を酸化金属に用いる提案と研究も行われてきた。しかし、CWレーザーを還元に用いる場合、レーザー照射時の還元効率は10%以下であり、太陽光の1%以下しか金属に実効的にエネルギーを蓄積できていない。
上記とは異なる方法、我々は太陽光を集束し太陽光励起レーザーで高繰り返しパルスレーザー光に変換、そのパルスレーザー光で酸化金属を金属へ極めて高効率で還元し、同時にナノ粒子化し、化学的ポテンシャルエネルギーの差として豊富に存在するベース金属にエネルギーを貯蔵し、エネルギー利用する研究を行った。理論計算上の話ではなく実験の結果、還元効率を100%に極めて近付けることにすでに成功した。この研究成果に関しては、多くの結果が学術論文となっている。新聞報道もいくつかなされた。
図1に我々が提案する太陽励起高繰返しパルスレーザーを用いたエネルギーサイクルを示す。
図1、太陽光励起レーザーとベース金属を用いたエネルギーサイクル
このエネルギーサイクルの利点として以下が挙げられる。
1.太陽エネルギーの利用 → 低炭素,低製造コスト
2.マグネシウム,アルミ、鉄、亜鉛、チタン、リチウム等、世に多く金属を利用可能
3.金属を媒体としてエネルギーの貯蔵・運搬が可能
4.金属ナノ粒子生成が可能
エネルギー生産に関して
いわゆる狭義の太陽を使った人工光合成の実現、金属を用いた再生可能エネルギーの生産である。以下、エネルギーの取り出し方法である。
水素製造
金属ナノ粒子と水蒸気を反応させて水素を製造
金属空気電池
空気中の酸素と金属を化学的に反応させて電気エネルギーを得る。
リチウムを用いた場合、エネルギー密度が10000Wh/kgと石油エネルギーよりも高く、将来の電気自動車の電源として期待されている。
我々は、新規空気電池の開発に関して、世界に先駆けて従来技術では不可能であったアルミ、鉄遷移金属やマグネシウムの酸化物から初めて金属板を、しかも200℃近くの低温で作成することに成功した。
太陽光励起レーザーの開発
非常に高い変換効率の太陽光励起レーザーの技術を所有
我々はレーザーの空間モード、短パルス化幅のビーム品質を重視しているため、発振器方式でなくアクティブミラー型増幅システムを採用している。新規レーザー媒質を用いたレーザーシステムの開発も行っている。ネット上の一部の反対者の意見と情報が大きく食い違う(彼らは今でも事実から目を背けようとする)が、根拠ある情報源となる多くの学術論文に成果も掲載されている。
金属ナノ粒子の大量生産と利用法
このエネルギーサイクルで生み出される金属ナノ粒子は多くの研究者が理解しているように大変多くの電気・電子デバイスへの応用、電気的・磁気的な応用が可能である。
それらの研究・開発、新現象の発見に力を注いでいる。
図2、太陽光励起高繰り返しパルスレーザーを用いた金属ナノ粒子量産システム 関西大学千里山キャンパスにて
図3、還元された酸化金属 ある1日、屋外で2時間での結果