セラミックレーザー開発の経緯 (玄人向け)
青字は後書きの注釈です。 あまりにも他のインターネットの記事の内容が。。。 実際に研究開発に関わった立場として。
1960年付近 Nd3+:YAGレーザー結晶の開発
このころランプ励起レーザーが主流
Nd3+:YAGでは吸収スペクトルが狭く効率よくランプ光や太陽光をレーザーへ変換できないという認識あり
励起光の感度を上げる追加の材料(増感剤)が必要であると考えられはじめた。
1964年 米国でNd3+/Cr:YAG結晶開発
問題あり Cr4+が生成 抑制できず。レーザー発振不明(おそらく不可)
(Cr4+が少量でも生成すると吸収がレーザー発振波長に生じ、レーザー生成の大きな妨げとなる。)
1965年 Nd3+/Cr:YAG結晶レーザーでは効率的にエネルギーを取り出せないと米国人研究者が主張
1980年代 ヨーロッパ各国で研究が続けられる。しかし、イスラエル、ロシアでは
Nd/Cr:YAG結晶レーザーのCr添加による増感効果なしとの結論に至る。
以後、この媒質のレーザー発振報告なし。
他のNd/Cr添加材料の開発へと移行 (Nd/Cr:GSGGなど)
注)Nd/Cr:GSGGは太陽光励起による連続的レーザー発振は不可
1995年 Nd/Cr:YAGセラミック開発 (ワールドラボ 池末氏)
ここでも問題あり Cr4+が生成 抑制できず。
結晶での問題は改善されず。
東工大グループが主張する吉田國雄先生が開発したという材料です。
彼らの主張に水を差すようで残念ですが、関係者の聞き取りによるとこの材料を用いた実験をしたという話はないらしい。
それはCr3+からCr4+への価数変化が制御できなかったので、そもそもレーザー装置に組み込むことを考えなかった?
2000年〜
2001年 阪大中塚氏、藤岡氏が粉体による増感効果の確認
2002年 Nd3+/Cr3+:YAGセラミックレーザーの開発に世界で初めて成功
役割 阪大中塚氏 製作依頼
神島化学 セラミック焼成
ここで初めて価数制御法の確立によりCr3+を維持可能とした。
レーザー総研 世界で初めてレーザー発振を確認
(一般的にレーザー発振しなければレーザー媒質として認められない。)
2003年 レーザー総研 ロッド型Nd3+/Cr3+:YAGセラミックレーザー
高効率(最終的に43% 世界最高)発振に成功
この2年後ぐらい2005年か2006年でしょうか?
東工大グループが太陽光を用いて池末氏が開発したNd/Cr:YAGセラミックをレーザー発振させたのは。
レーザー総研がレーザー発振に成功してから、3年ぐらい経過しています。
2005年〜2009年
Nd3+/Cr3+:YAGセラミックレーザーの他の媒質とは異なる特異な光学的性質(多くのアドバンテージ)が次々と明らかになる。
実効的誘導放出断面積の増大
実効的蛍光寿命の増大
蛍光バンド幅増大
高温動作可能 (他のレーザー材料では高温になるほど効率低下)
フォノン補助クロス緩和効果
などなど。
現在に至る。
上の分を要約すると
(重要)現在注目されている太陽光直接励起用Nd3+/Cr3+:YAGセラミックレーザーは、阪大、レーザー総研、神島化学のグループにより、2002年に開発された。ここで従来技術との線引きがなされる。これを可能としたのがレーザー媒質のセラミック化と価数制御技術である。
セラミックとは、いわゆる多結晶構造で10ミクロン程度の結晶がよりかたまってできている。
セラミックレーザー材料の製造技術に関して、ワールドラボと神島化学は同等の技術を持っていた。しかし、セラミックのもととなる粉体の製作方法が異なり、片方は固相法、もう一方は液体のゾルゲル法で、レーザー発振可能な太陽光直接励起用Nd3+/Cr3+:YAGセラミックレーザー材料を先に試作できたのが神島化学であった。
たしかに1995年ワールドラボが最初にNd3+/Cr:YAGセラミックを開発したというのは事実です。しかし、このとき従来のNd3+/Cr:YAGレーザー結晶の問題(Cr4+が生成)を残したままセラミック化されました。この時点でNd3+/Cr3+:YAGセラミックを開発したと言う主張は不可能で、従来の結晶と全く性質が同じで従来技術からの進歩はほとんどありませんし、効率が改善できるという認識すらも不可能です。
つまり、このワールドラボが開発したNd3+/Cr:YAGセラミックの太陽光励起レーザー分野への寄与は、ほぼありません(他のNd:YAGについてはワールドラボが先行していたかもしれませんが)。
どこかで言われている、セラミック化したから太陽光励起レーザーの活路を開いた、という主張は不可能です。
セラミック化のみでは不可能で、セラミック化+価数制御(純粋なCr3+に維持する)が、必須であるのです。
また、基本的にワールドラボと神島化学のセラミックの製法は異なるものであり起源が異なるため、ワールドラボの技術の改良を神島化学が行ったという主張は、絶対ありえない。
開発年表
年 開発者 開発された材料 製造方法 効率の改善(当時)
1964 NASA Nd3+/ C3+ + Cr4+:YAG単結晶 チョコラルスキー法 不可(レーザー発振報告なし、その後もCWでなし)
1995 ワールドラボ Nd3+/ C3+ + Cr4+:YAGセラミック 固相法+焼結 不可(レーザー発振報告なし、その後、2005年ごろあり)
2002 神島化学 Nd3+/ C3+:YAGセラミック 液相法(ゾルゲル法)+焼結 可 (レーザー発振報告あり)
大変残念ですが、東工大は、レーザー総研の開発がうまくいった、すなわち、変換効率が高かったので後から開発に乗り出してきた、というのが実情です。
レーザー総研が研究成果を出すまで、本当にレーザー材料として使えるの?というのが、一般認識でした。
1、1965年に開発された?従来のNd3+/Cr:YAGレーザー結晶では、Crイオンの価数制御がうまくいかなかった。
過去40年間近くこのNd/Cr:YAGはレーザー媒質として機能しないものと考えられてきた。
ヨーロッパ地方では現在でもこの考えが根付いている。学会発表、論文査読しかり。
結局、アメリカ、ヨーロッパが開発したレーザー結晶ではうまくいかなくて、日本がセラミック化して価数制御に成功すれば、うまくいったということです。
そもそも一般的にYAGにCrを混ぜると効率が改善することは諸外国の研究成果から主として否定されていた(自明でないというか、無理そう)のが実情です。よく見かける主張で、”Crを混ぜると効率が改善するという昔からの認識があった”、というのはこの材料に限ってはありませんでした。
2、1965−2005年の間考えられてきたCr3+添加による効果は、ただ単純な半導体によくあるエネルギー供給能力のみであった。しかし、我々が明らかにしたように、Nd3+/Cr3+:YAGセラミックレーザーはきちんとしたCr3+の制御が可能となり、今までに予想されなかった効果が明らかとなった。従来のNd3+/Cr:YAG結晶とNd3+/Cr3+:YAGセラミックは根本的に特性が異なる。
これらの詳細については業績リストにある論文を参照願います。